あらすじ・ネタバレ

ヒトラーの秘密を握る機密文章をめぐる、３人のアドルフの物語。
手塚治虫の作品が好きな人。第二次世界大戦の時代に興味のある人へ。
「これは　アドルフと呼ばれた　三人の男たちの物語である」（１巻冒頭）
冒頭、一人の男がイスラエルのとある墓地に立っている。３人のアドルフが全員死んだことで彼は過去を振り返りだしたのである。
男の名前は峠草平（とうげ　そうへい）。
昭和１１年（１９３６年）８月、舞台はドイツのベルリンオリンピックより始まる。競合通信の特派員としてベルリンオリンピックに来ていた峠は、ドイツに留学している弟から電話をもらう。あさっての夕方下宿に来るように言われるが天候悪化により競技が中断され日没後に再開されたせいで大幅に約束の時間が過ぎてから弟の下宿に向かった。そこには、下宿の前の木の枝に体を貫かれて死んでいる弟の姿があった。そのあと弟の死について調べるがドイツの行政は非協力的で、近隣住民もみなしらを切りいっこうに調査が進まないのであった。そんな時借りている部屋に戻ると見知らぬ女性がおり、弟のことをしっていると言う。彼女の名前はリンダ。しかし殺されたことを伝えると合点がいったのか何かに怯えるように急いで帰ってしまう。そのあと弟のことをしっているという電話をくれた農家に会いにいくと、一家全員皆殺しにされており、近くの木の根元が不自然に荒れていることからそこを掘ってみると弟の死体を見つけてしまう。そのとき見知らぬ車から降りてきた男たちが峠に向かってくるのを見て瞬間的に走って逃げると男たちも追いかけてきたのであった。途中バスを見つけ飛び乗ったところで運転手に殴打されて昏倒してしまう。
目を覚ますとそこは真っ暗な部屋複数の人間に囲まれており、尋問が開始される。どうやら弟が峠に渡すはずだった「公開するとナチスの存続が危うくなる」情報を探しているようであった。もちろんまだ受け取っていない峠は過酷な拷問を受けてしまい再び昏倒。目が覚めてから改めて真相を知ろうとする峠は、目が覚めた時に看病してくれた弟の元恋人を名乗るリンダと共に、尋問をした男も来るかもしれないナチスの党大会に出席する。
そのナチスの党大会ではヒトラーがユダヤ人を根絶やしにするという内容の演説を行っていた。こうして最初のルドルフが峠の目の前に現れたのであった。
途中舞台は日本に戻り、そこには、ナチスの迫害から逃れ、神戸へと亡命し、ブレーメンというパン屋を営むユダヤ人一家の息子「アドルフ・カミル」と、ドイツ人の外交官と日本人の妻から生まれたハーフの「アドルフ・カウフマン」がいた。
物語は、「公開するとナチスの存続が危うくなる」情報の在りかを主軸に、カミルとカウフマンが中心となって進んでいく。とてもよく練られた話であり、基本的には悲哀に満ちた話である。